20090610

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むかしばなし1


豚肉はとりあえず佐川急便に連絡を取り再配達を頼もうとしてあることに気がついた。彼のお気に入りの100円ショップで買ったアナログの腕時計は現在は夜中の12時を示している。

「お、おい。こんな時間に宅配業者が来るわけがないだろ。深夜だぞ。今度来たら文句を言ってやる。ってオレはいったい誰に話しかけているんだ。」

豚肉はあまりに疲れていた。が、彼にはやらねばならないこともあった。締め切りは明日だ。友人が昼過ぎには原稿を直接取りにやってくることになっている。

しかし、それにしても最近自分の周りであまりにおかしな事が起きすぎる。先月末には、家の前に置いてあったヴィンテージと言えば聞こえのいい彼のオンボロな自転車はガブリエル・オロスコの作品のように真ん中から前後に切断され後ろの半分だけがその場に残されていた。今月に入ると、朝起きると額に「3」という数字が書かれていたし、食い逃げする夢を立て続けに2回も見た。

そして、彼はまた一つ新しい先ほどの起こった珍事を頭の中で整理できずにいる。コロッケさんも気にはかかる。夜中の12時という点も通常ではない。しかし最も彼を悩ませるのは先ほどの人影だった。混沌とした思考の中でもう一度便座に腰を下ろした。

豚肉の家は一般的な家とは2つの点でかけ離れたものとなっている。その一つ目として、玄関のドアにはとても大きな穴が開いている。お辞儀をするようにして少し体を小さくすれば大人でも余裕で玄関のドアノブを回すことなく家の中に入ることができる。実際に豚肉は以前はそうやって暮らしていた。

しかし、ここに越してきてから1度目の冬を迎えたとき、余りの寒さに豚肉は内側からドアに東京都推薦の不燃ゴミの半透明の袋を2重にして貼り付け、一応建物の内側と外側に隙間がないようにはしている。「可燃ゴミ」ではなく「不燃ゴミ」を選んだのには彼なりの意味があるらしいがその意味を知るものは彼意外にはいない。

その前衛的ドアスタイルによって、外灯からの光が半透明の膜を通過して玄関のたたきに夜でもぼんやりとした明かりを灯すような具合になっっている。なので玄関先になにか障害物があれば、物音せずともすぐに内側からそれに気づくことが出来るのだが、先ほどの人影はいつもとは少し様子が違った。

ドアを隔てた向こう側にいるのが「人」であると認識するのにすら普段より一瞬遅れほどだった。正直に言えば、一度目のインターホンが鳴るまでは「あのシルエットは人なのか。」と、彼は疑ってすらいた。

豚肉の思考はすでに容量の限界を超えていた。脳内ハードディスクはカラカラと音を立て、情報処理速度は普段の3分の1程度まで落ち込んでいた。左目の視界の一部が曇り、体は少なくない量の水分を欲していたが、新たな異常な出来事に頭を悩ませながら彼はそのまま便座の上で深い眠りに付いた。


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2 件のコメント:

  1. こんばんわ。
    いつも楽しく拝見しています。

    コロッケさんは何者なのでしょうか。気になります。

    それはさておき、blogにコメントありがとうございました。
    リンクを張られていたのは予想外です。
    ぜひまた国内留学させてください。

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  2. みさん、遅くなりました。

    コロッケさんの謎はもう少しで解けそうな気がします。
    気長に読んでみてください。

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