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むかしばなし1
「うん、悪くないぞ」
俄にテンションの上がった豚肉は独り、トイレの中でつぶやいた。
そうやって頭に浮かんだ流れを、すぐに机に戻って書き落とすべきだと
思ったがなぜか腰は上がらない。
とくに何の制約もないはずだった。
おしっこがとまらないわけではなかったし、うんちのキレも良かった。
ましてや、便座にトリモチが仕掛けられていてゴキブリホイホイのように
捕まったわけでもない。
とくに何の制約もないのに、ただなんとなく豚肉は立ちあがらなかった。
こういう状況ってちょくちょくあるよなあ、と思う。
そうこうしている間に何分くらいが経ったのだろう。
寝ぼけた頭でもわかっていることは、締め切りが刻一刻と近づいていること。
そして、それを守れなければいよいよ現在の生活が危ういということだ。
そんな風に状況を整理してまもなく、彼は下っ腹のあたりから頭のてっぺんに
かけて、青ざめるような感覚に襲われた。
「現在なんてやつに追われるのはまっぴらごめんだね」
またも心にもない独り言をつぶやいた豚肉は、やっとトイレのドアを開けて凍り付いた。
玄関口に人影があった。
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