20090609

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むかしばなし1



「うん、悪くないぞ」

 
俄にテンションの上がった豚肉は独り、トイレの中でつぶやいた。
そうやって頭に浮かんだ流れを、すぐに机に戻って書き落とすべきだと
思ったが
なぜか腰は上がらない。

とくに何の制約もないはずだった。
 
おしっこがとまらないわけではなかったし、うんちのキレも良かった。
ましてや、便座にトリモチが仕掛けられていてゴキブリホイホイのように
捕まったわけでもない。

とくに何の制約もないのに、ただなんとなく豚肉は立ちあがらなかった。
こういう状況ってちょくちょくあるよなあ、と思う。

そうこうしている間に何分くらいが経ったのだろう。
寝ぼけた頭でもわかっていることは、締め切りが刻一刻と近づいていること。
そして、それを守れなければいよいよ現在の生活が危ういということだ。

そんな風に状況を整理してまもなく、彼は下っ腹のあたりから頭のてっぺんに
かけて、
青ざめるような感覚に襲われた。

 
「現在なんてやつに追われるのはまっぴらごめんだね」
またも心にもない独り言をつぶやいた豚肉は、やっとトイレのドアを開けて凍り付いた。


玄関口に人影があった。


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