20090619

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むかしばなし1


「だからさ。今は朝7時前だって。おかしくねえかい。」

豚肉は一応声には出してみたが、それは自分自身への確認作業であり、
それ以上の意味は持たず、その声はトイレ内に虚しく響いただけだった。
再び先ほどと同じように、汗が噴出し、脈拍が上がった。

先ほどの奇妙なシルエットが頭から離れなかった。

普通であれば「半透明の膜」の向こう側には膝から胸くらいまでの
人影が見えるはずなのに、あのシルエットは少なく見積もっても、
脛から股下くらいまでだった。

あのままのペースで上半身が続けば、
身長はおそらく3m前後はあるだろう。
隣に川合俊一が並んだとしても、あまりに哀れでならない。

彼は深い深呼吸をした。
そしてトイレのドアを開けて玄関を見た。
外はもうすでに明るくなり、
太陽がまたずいぶんと攻撃的な日差しを刺していることがわかった。

シルエットを見て、脈拍はさらに上がった。
昨夜と同じだ。またあの成長ホルモン分泌過多男が我が家の前に立っている。
日差しが彼の下半身をくっきりと浮かび上がらせていた。
豚肉は、再び居留守を使うことも考えたが、意を決して玄関のドアを開けること決めた。

自分の稼業への漠然とした不安感と目の前の大男への不信感の両方を持って、
彼はひとまず玄関のドアの内側に立った。

「はい」

「すいません、佐川急便です」

「・・・・そうですか。でも今は朝の7時前ですよね。これっておかしくないですか。
佐川急便さんの配達は朝8時以降だったはずですが」

オンボロで穴の開いたドアであるが、一応名目上は玄関のドアを挟んでいる。
覚悟を決めた豚肉は少々強気な発言をしてみた。

一つ驚いたのことは、相手の声は、女性だった。
完全に体格から想像するに男だと思っていたが、
でかい女がいても不思議ではない。もうここまで不思議なことが起こり続けると、
豚肉とって不思議や驚愕へのハードルはかなり高くなっていた。
ドアを開けたらどこかで見た映画のように全く違う町並みが広がっていても、
「まぁそういうこともありえる、ありえる」と済ませてしまえそうな気さえした。

「え。あの、今はちょうど昼の12時ですが」


「・・・・えっ」

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